「ここが、さの喫茶かぁ」
その場所に着いた時、木彫りの看板を見て葉山くんは嬉しそうに笑った。
「ここまで俺を連れてきてくれて、見捨てないでくれて、ありがとう」
深々と頭を下げられ、慌てて首を振る。
「私は傍に居ただけで、渡ると決めたのは葉山くんでしょ。さぁ中に入って。風邪引いてちゃうよ」
お店の扉を開ける。
長年染み付いたコーヒーの香りが漂う。
「お邪魔します」
ようやくここまで来れたんだ。
葉山くんに隠れて目元を押さえ、涙を堪える。
「ここに、座って」
いつも青山さんが座る席の隣りの椅子を引く。
「ありがとう」
「まずは白湯でも良い?」
「うん。お手数をおかけします」
店内を見渡す葉山くんの瞳は輝いていて、憑き物が落ちたように晴れやかな表情をしていた。


