その手をぎゅっと掴めたら。


「葉山くん、綺麗事は言わないで」

もういい。嫌な女になってやる。


「綺麗事?」

葉山くんの眉がピクリと動く。


「私のせいにしてるけど、本当は交差点を渡るのが怖いだけでしょう。私を理由に、逃げないで」


「……」


言い返してくれたらいいのに。葉山くんは挑発には乗らず、再び、歩き出す。



「私の淹れたコーヒーを葉山くんに飲んで欲しいの。祖父が大切にしていたあの場所で、飲んで欲しい」


これは本心だ。
淹れたてのコーヒーを店内で飲んで欲しい。


私たちはまだ未成年でお酒を酌み交わせない代わりに、一緒にコーヒーを飲もうよ。今日なら青山さんと盃を交わせるよ。


「……」


この想いは葉山くんには届かない。
振り向きもせず葉山くんは人混みに紛れた。

私の想いなど、彼の固い決意の前では砕け散るだけだ。


泣きそうだ。
青山さんに助けてと心の中で叫びながら、俯く以外なにもできなかった。