その手をぎゅっと掴めたら。


前を向いて歩く葉山くんは口から呼吸をして、何度も瞬きを繰り返していた。


やっぱり戻ろう。そう声をかけられたらどんなにいいだろう。



「……」


不意に葉山くんは足を止めた。

交差点が見えた瞬間、葉山くんは硬直し、空を見上げる。


思えば葉山くんば教室の窓から空を眺めていることが多かった。でもそこに、青山さんはいない。


きっと今、あなたの隣りにいるよ。



ふぅと、息を吐き出した葉山くんはやっとこちらを見た。



「こんなことに巻き込んで、ごめんね。詳しい事故のこと、誰かから聞いたんじゃないの?前田先生か生徒会長?」


「誰とは言えないけど、聞いてしまいました」


こんな時まであなたは弱みを見せるところか鋭い指摘をしてくる。


「此処を渡れば、俺は幸せになれるのかな」


「分からない。でも何かが変わるかもしれないよ」


「…俺には、渡れない」


青信号になり、周囲が歩を進める中、私たちだけは立ち止まったままだ。


「…どうして。私が引っ張るから、目を瞑ってもいいんだよ」


「渡りたくない」


葉山くんは克服してくれていると信じている。絶対に渡り切ってくれると、信じて此処まで来たのに。彼は駅までの道を引き返し始めてしまった。