その手をぎゅっと掴めたら。


あの日とは違う。
空に雲ひとつない晴天だった。

風は強いが太陽が見えている分、寒さが和らぐ。



2人で駅前に立ち、葉山くんが一歩を踏み出すまで待つ。焦ってはいけない。私の事情は何も知らない葉山くんには関係のないことだ。



「よし行こう」

「うん」


右足を前に出した葉山くんは歩き出した。

彼にしては珍しくゆっくりな歩調に合わせて、私も進む。


「あのね、パウンドケーキを作ったの。着いたら、食べてくれる?」


気を紛らわそうと明るい話題を持ち出す。


だけれど、葉山くんは答えてくれなかった。


顔を歪めて辛そうに歩みを進める彼には、私の言葉はもう届いてはいないようだ。

それほど集中しているのか、それとも私は不要なのか。いずれにせよ彼が歩みを止めていない以上、私も黙って前を向いた。