その手をぎゅっと掴めたら。


南ヶ丘駅で苦しそうな葉山くんを見た時、素人目にも大変な状況だと分かった。

精神安定剤を飲んだ葉山くんはなんとか立ち上がってひとりで帰って行ったけれど、そんな彼を今度は無理矢理にでも前に進めなければいけない。


引きずってでもあの交差点を渡り、
さの喫茶に導かなければいけない。


青山さんと会えるからと伝えれば、
例え半信半疑であっても、這いつくばってでも、うちに来てくれるかもしれない。


でも、伝えてはならない。
理由を話してはならない。
それが青山さんの希望だ。


「俺の助けなく、あの交差点を渡り切らなければ、本当の意味で前には進めないと思う。交差点を渡り切り、もう俺がいなくても大丈夫だって確信ができたら、俺は北斗と会うよーーといっても、北斗に俺が見えるかは分からないけれど」


誰よりも葉山くんに会いたいのは青山さんなのに。彼は葉山くんの未来のために、そう簡単には会えないと言う。

もしかしたらこのまま時が解決してくれるかもしれないことに、無理矢理にでも傷口を開かせることが正しいのだろうか。


2人は会わない方が幸せ?
それは違う。
葉山くんが自力でさの喫茶まで来て、青山さんと会えたのであればそれは最善の結果だ。

今のままの葉山くんが青山さんと会って、残された彼だけが未来に進めるかはーー五分五分だから。

青山さんも私も、リスクのある賭けはしたくない。


「ごめんね、君に託してしまって」


18時ジャスト。
その言葉だけを残して、青山さんは目の前からすっと消えた。


いや青山さんはそこにいて私の目には映らなくなったということだろう。


「いえ、きっと成功させますから」


姿は見えなくても届くであろう返事を声を張り上げて伝えた。