その手をぎゅっと掴めたら。


その日は、雨だった。

土砂降りの雨の中、制服を着た2人の中学生が南ヶ丘駅で降りて、卒業後の進路について語り合う。



「俺はやっぱり、留学して世界で仕事がしたい」


「へぇ」


「北斗はどうしたい?」


今は寒さ厳しい12月。
中学生活も残り僅かだ。



「瞬がそうするなら、俺も一緒にやる」


「そうか。平日は仕事で忙しくして、休日はテニスで身体を動かす。それって最高の生活だよな、相棒」


「そうかもな」


激しい雨音で掻き消されないよう、2人の声が大きくなる。


「北斗、ありがとう」


傘の前方部分を少し上げて、2人は目を合わせる。


「なにが」


「本当はもっと偏差値の高い高校に行けるのに、俺に合わせてくれて」


「そんなことないよ。冒険をしたくないから安全圏を狙っているだけ」


嬉しそうに笑い掛ける青年に、もう1人は淡々と答える。


「そんなこと言っちゃって…よし、今から行くオススメのお店で、コーヒーを奢ってやる。誰にも教えていない俺の特別な場所なんだ」


「さくらの誕生日プレゼントに、お小遣い使い果たしたって言ってたよな」


「大丈夫。金曜日だけ、学生は半額で美味いコーヒーが飲めるんだ」