その手をぎゅっと掴めたら。


「でもこの半年で北斗は変わったよ。女の子に興味がなかったくせに、彼女を作って、自分の過去の話をして、幸せを呼ぶ観覧車にまで乗ると言い出した。本当に大切なものができたのだと思う」


私の目にも変わろうともがく葉山くんが映っている。彼は前に進もうとしている。


「それでもまだ心配だ。だから真奈ちゃんにお願いをしたい。最後のワガママだと思って聞いてくれない?」


目の前にいる青山さんはいつも通り穏やかで、私の相談に乗ってくれている時のような軽やかな口調だった。

断り易い雰囲気を作ってくれた。
選択権は、私にあるって示してくれている。


「どんなことですか?」

「ありがとう」


やっと淹れられたコーヒーを青山さんに渡す。

いつもより熱く淹れてしまったため、湯気が青山さんの眼鏡を曇らす。


「俺のことを打ち明けず、北斗を"さの喫茶"まで連れて来て欲しいんだ」



それは賭けだ。
だってチャンスは1度きりしかない。

失敗したらもう二度と2人は会えない。
その重みが心にのしかかった。