その手をぎゅっと掴めたら。


休み時間が終わるチャイムが鳴り響き始めた。

少し前までどうやって時間を潰そうか悩んでいたのに、葉山くんが来てくれたからあっという間だった。


「行くか」

「はい」

「もっと気楽でいいよ。タメ口でいいし」


そう言って背を向けた葉山くんは今朝と同じようにさっさと教室に戻って行く。

いや、今朝とは違うーー駆け足で彼に近付く。


「うん。敬語やめるね」

「ああ」


人通りのない廊下を並んで歩く。


「葉山くん。さっき好きだから付き合ってるって言ってくれたこと、すごく嬉しかったよ」


葉山くんからの返事はなかったけれど、この距離なら確実に聞こえているだろう。


「でも、勘違いしないから安心してね」


小声でそっと付け足す。
葉山くんはこちらを見たけれど、やっぱりなにも言わなかった。