その手をぎゅっと掴めたら。


空いている椅子に置いたトートバッグには、"さの喫茶"と刺繍が入り、祖父が数年前に常連客に配ったものだ。コーヒーカップと愛くるしいクマのイラストが入っている。


「親友は"さの喫茶"のオリジナルコーヒーが大好きで、よく通っていた。トートバッグも気に入ってて、いつも持っていたから佐野を見た時、運命みたいなものを感じたんだ」


「…トートバッグが、付き合った理由?」


葉山くんの親友がうちのコーヒーを好きだったことには驚きだけど、それが私と付き合った理由だというのなら、怒りたい。


「親友が、明るい方へ俺を導いてくれている気がしたんだ。君の姿を見つけた時、ちゃんと学校に行けって、親友に言われた気がしたんだ」



よく分からないけれど、そういえば葉山くんがうちの高校を受験した理由は親友と一緒だったから。でも葉山くんが2年間、学校に通わずにいた間に親友は卒業しちゃったのかな。それだと同じ年にはならないか…。


「…ごめん、話、まとまらなくてごめん」


「あ、こっちこそ理解力が乏しくてごめんなさい。親友さんは卒業?それとも転校したの?確かうちの高校を一緒に受けたんだよね」


相談会の時にそう言ってたから。


「……親友は、」



その後に続く言葉を聞いた時、

全身に鳥肌が立った。