その手をぎゅっと掴めたら。


「その、トートバッグ」


今度は私のトートバッグを指差した。
それはさの喫茶特製のトートバッグで、私のお気に入りだ。


「トートバッグがどうしたの?」


葉山くんの口から出る単語には、先程から一貫性がなく理解し難い。
私と付き合った理由を話してくれるのではないの?


それでも彼が真面目な表情をしているものだから、とりあえずは話を聞こうと決めた。


「入学初日から、君はそのトートバッグで登校していたよね。俺は2年間、引きこもりをしていて入学式の日、やっぱり帰ろうかなって思った。今更、学校なんて…って、校門で引き返そうと思った。そんな時、少し前を歩く君が目に入った…トートバッグを持った君が」


待って。これはいったい何の話なのだろう。


「俺の、親友が、そのトートバッグを愛用していたから。そこに親友がいるかのように、思えたんだ」


ゆっくり間を空けて吐き出された言葉に、聞き返す。


「それって葉山くんの親友が、うちのお店の常連さんってこと?」