その手をぎゅっと掴めたら。


葉山くんは自身を落ち着かせるかのように深呼吸をして、空を見上げた。


「俺は、ブラックコーヒーが、苦手だ」


ゆっくりと吐き出された言葉に、思わず「え?」と聞き返してしまう。


「本当は、焼きそばパンより、メロンパンやチョココロネとか、甘いものが好き」


あれ、なんの話だろう。
昔はブラックコーヒーが苦手だと聞いていたけど、焼きそばパンだって、お昼には必ず食べている。よく飽きないな、それほど好きなんだなって思っていたのに。



「今日は、佐野と付き合うことを決めた本当の理由を、話したいと思う」


苦手なものについて聞き返す前に、話題は変わった。


「え、嘘告白だって気付いたけど、私の立場を考えて付き合ってくれたわけじゃないの?」


やっと罰ゲームで告白したと打ち明けた際にそう言ってくれたじゃないか。


「違うよ。もっと、俺にとっては大切な理由があるんだ」


空を仰いだままの葉山くんの視線の先を追うと、そこには綺麗な青が広がっていた。