「監督とはたまに連絡をとっていて、今でも説得されるよ。英知も監督から俺のこと聞いていると思うけど、やっぱり俺の相棒は瞬しかいないから、テニスは辞めると決めたんだ。そもそも瞬に誘われて始めたテニスだしね」
これは私が口を挟める問題ではないから、黙って耳を傾ける。
「………本当は無理矢理にでもテニスクラブに戻ってきて欲しいと思ってたんです。でも高校の食堂で、佐野さんと笑い合っている姿を見て、北斗さんがもう一度笑えるのであれば、もういいのかなって。なにも楽しいことはテニスだけでなくて、北斗さんがやりたいことをして笑っていれば、それでいいのかなって、思ったんです」
「瞬のことは一生、忘れられないけれど。俺は今、楽しいし幸せだよ」
前向きな葉山くんの台詞に心が躍る。
戻れない過去を悔いる時間が1分1秒でも減ればいい。楽しいと思うことを積み重ねて、苦しみより楽しいが勝る時間が増えればいい。
「それなら、良かったです」
英知くんはコーラの入ったカップを持ち上げ、それに倣って葉山くんもカップを手に取り、2人はカップを軽く合わせた。


