車に乗ったのはいつぶりだろう。
父の単身赴任が続き、我が家には車がなかったし、祖父も免許を返納していた。
「ありがとうね、あの子と仲良くしてくれて」
そしてなにより葉山くんのお母さんの車に乗せてもらっている不思議な状況に、身構えてしまう。
「と、とんでもないです!こちらこそありがとうございます」
「この間、ずぶ濡れになって帰ってきてからずっと顔色が悪くて学校も休むと言ってきて、もしかしたらこのまま…また登校しないのかな。ってちょっとだけ不安だったのよ」
ハンドルを操作しているお母さんの横顔を見つめる。
「でも今日はあなたが傍に居てくれていると知れて、安心したし嬉しかったわ」
「私の方が葉山くんに助けられてばかりなので、おごましいかもしれませんが、葉山くんのためにできることがあるのなら、どんなことでもしたいです」
「ありがとうね。そこまで北斗を想ってくれて」
葉山くんがたくさん傷ついてきた分、お母さんも同じように痛みを背負ってきたのだろう。知り合ったばかりの部外者の私にできることなど、無いかもしれないけれど。それでも傍に居ることを、この先もずっと選択し続けたい。
もう何事からも逃げたくない。


