その手をぎゅっと掴めたら。


「とんでもない!そこまでご迷惑は…」


「夜道は危ないから、送ってもらって。本当は俺も送りたいけど、今日は母さんに任せようかな」


「本当にひとりで帰れるよ!」


手を左右に振って家の外に出る。

お風呂まで借りてしまい迷惑かけているのだからと遠慮するものの、葉山くんのお母さんはコートを羽織って家の場所を聞いてきた。


「…本当にすみません。家は南ヶ丘駅です」


「南ヶ丘駅…後でナビにお家の住所を入れてくれる?」


「いえ!駅から近いので、駅前で大丈夫です」


「そう?遠慮しなくていいわよ」


「本当に近いので!」


表に出ると、葉山くんが助手席のドアを開けてくれた。


「また明日。学校で」

「うん。学校でね」


笑顔で向かい合う。
ありふれた日々の挨拶なのに、とても貴重なやり取りに思えた。