その手をぎゅっと掴めたら。


亜夜からの着信が入った頃にはもう外はすっかり暗くなっていた。部活帰りの彼女は私が家を開けていると知ってよほど狼狽えたようだった。電話の先から聞こえた暴言は、怒っているようなほっとしたような複雑さが入り混じっていた。


「今日はありがとう」

「こちらこそありがとう」

「忘れ物の傘が役に立ちそうだね」


玄関の傘立てに猫のイラスト入りの見覚えある傘がある。



「…あの時、病院で逃げ出さずに葉山くんと向き合っていたら、すぐに仲直りできたかな?」


「どうかな…。さっき家の前で君が壁を殴ってまで、真剣にかつひどく悲しそうに俺と向き合ってくれた時さ、やっぱり決心がつかなかった。君は別の幸せを見つけるべきだと思って、ドアを閉めた。でも結局追いかけたのはさ、今は亡き友達の声がしたんだ。"追いかけろって"。逃げ出そうとする俺に喝を入れてくれたんだと思う。それを聞いてすぐに君を追いかけた」


「そっか…私たちのことを見ていてくれたんだね」


「うん」


傘を受け取る。
もう二度と逃げたりなんてしない。


「帰るのね。車出すから、待ってて」


足音が聞こえ、葉山くんのお母さんが駆けつけてくれた。