その手をぎゅっと掴めたら。


ゆっくりとココアを飲む。
この時間を惜しむように、ゆっくりと。


「ありがとう。俺の手を、離さないでいてくれて」

「好きだから、離れたくないだけだよ」



ただただ好きで、どうしようもなく好きだから、諦められないだけだ。はっきり言って、反対の立場だったらひくよね?



「やっぱり俺も、佐野と離れたくないな」

「うん」


いつもの柔らかい笑みを讃えて葉山くんは言ってくれた。


「これからもずっと、俺のことを好きでいて」


「当たり前だよ。嫌いになれって言われる方が無理!」



友達を失った過去とは永遠に決別できないだろう。葉山くんは優しくて、真面目な人だから。

嫌なことを忘れて欲しいと思うけれど、それは私のエゴでしかなくて葉山くんの心は拒否するだろう。



「昔のことを話したくなったら、いつでも聞くし。もし私が無意識のうちに葉山くんの聞かれたくない領域に足を踏み込もうとしたら、その時は叱ってね。そのくらい気楽に行こう?私は一緒に居られるだけで十分すぎるくらいだからね!」


「…うん。ありがとう」


どれほどの葛藤を抱えてきたのだろうか。
それでもその弱さを、高校という空間で彼が見せたことは私が知る限り一度もない。いや、ないのだろう。高校という狭いネットワークでの情報共有は迅速に行われ、すぐに噂になるのだから。

いつも余裕のある素振りで完璧な高校生を演じて、モテ王子という愛称までついた。
それを虚勢と呼ぶのであれば、どれほど心を削っているのだろうか。

とても心配だけれど、今はただ笑って彼の隣りに居るべきだよね…。