その手をぎゅっと掴めたら。


葉山くんがこんなにも苦しんでいると分かったのに、私の心は楽観的なことを思った。


「良かった」

「え?」


私の言葉に葉山くんが目を丸くする。

そりゃそうだよね。自分でも場違いな台詞だって分かってる。


「だって別れ話の理由は、私のことを嫌いになったというより、私のことを想ってのことでしょう?」


「そうだね」


「それなら良かった」


本当に良いことなのか、天秤にかけることを放棄して言って退ける。



「正直、葉山くんの悩みより、自分が嫌われてなかった!っていう事実の方が大切なんだよね。だって、葉山くんのことは2人で乗り越えられるかもしれないけど、私が嫌われていたら別れなければいけないだろうし、それこそ私にとってのバッドエンドなんだよ」


明るく言ってのける。


そうだよね。
葉山くんは苦しんでいるけれど、そのことに対して後ろ向きになっても友達は戻ってくるわけじゃない。過ぎたことを追求しても未来が変わるわけじゃない。


「ごめん、葉山くんにとって重要なことだろうけど、私にとっては別れる理由にならないし。それに事情を知ったからには、なるべく葉山くんの負担にならないようにするから!だから、彼女のままで居させてください」


高いテンションのまま一気に告げた。


座ったまま頭を下げて、葉山くんに見えないように目を閉じる。


泣くな、悲観的になるな、笑え。
ぐちゃぐちゃな感情を抑えつける。


ここで涙を見せれば、葉山くんは離れて行ってしまうだろう。