その手をぎゅっと掴めたら。


救急箱の蓋を閉めた葉山くんは私と向き合うように座り直し、口を開いた。


「…先週、君が任されている喫茶店に行くことをとても楽しみにしていたんだ。でも、行けなかった…」


私も、すごく楽しみにしてたよ。
心の中でそう返事をする。


「…時々、発作みたいなものが起こるんだ。目の前の景色が白黒になって、立っていられない程の気持ち悪さが込み上げてくる。病院で薬を貰っていて、まぁ精神的なものが原因なんだ」


「……そう、なんだ」


葉山くんが一呼吸置いたからなにか言わなければならないと思ったけれど、驚きすぎて淡々とした返答になってしまった。

精神的?
いつも落ち着いた物言いで冷静沈着な葉山くんの姿からは想像ができない。


「この病気のせいで、高校にも通えず、 しばらくは引きこもりだった。2年くらいかな、何もせずこの部屋で淡々と過ごしたんだ」


「2年も…なにか原因があったの?」


その原因を克服できていないから、彼は…土曜日に発作を起こしたのだろうか。そうだとしたら、一緒に考えたい。

空白の2年の痛みに共感することは難しいけれど、理解しようと努力することならできるから。