その手をぎゅっと掴めたら。


マグカップからココアの良い香りが漂う。
猫舌なのでカップを見つめていると、テーブルを挟んで目の前に座っていた葉山くんが立ち上がった。


私の隣りに屈むと、手を伸ばして木の箱を開ける。
中身は救急セットのようで、薬や包帯、軟膏がいくつも入っていた。


「まずは消毒からだね。それからドライヤーで髪を乾かして、話そう」


「…後で、良いです。葉山くんの話を先に聞きたいです」


傷口も濡れた髪もどうでもいい。
葉山くんが何を言おうとしているかが、気になる。



「ダメ。君が万全の状態じゃないと、俺が気になって話に集中できないからね。はい、右手を出して」


そう言って大きめのバンドエイドの封を開けて、両端の紙を剥がした。


おずおずと手を出すと、労わるように優しくバンドエイドを貼ってくれた。


「壁を殴るなんて、どうかしてるよ。痛いでしょ」


「…自業自得ですので」


「まぁね。はい、湿布。痛いところに貼って。俺は後ろを向いているから」


テーブルの上に湿布の箱を置いてさっさと葉山くんは後ろを向く。


「…絶対に振り向かないでくださいね」


「そこは信用して。間違っても振り向かないから」


その言葉を信じて、湿布に手を伸ばす。
上着を捲って苦戦しながらも腰に、後は両膝に湿布を貼った。


「…終わりました」


葉山くんは私に何を伝えようとしているのだろう。