その手をぎゅっと掴めたら。


案内された部屋はテーブルと勉強机、本棚、ベッドと無駄なものが一切ない整理整頓された空間だった。

葉山くんが飲み物を淹れてくると言って部屋を出て行ってから、遠慮なく部屋を見渡している。


普段、葉山くんがなにをして過ごしているのか、想像が難しい。テレビがなければ、音楽プレイヤーもない。本棚には漫画本はひとつもなく、実用的な専門書や雑誌ばかりだ。


テーブルの上に木の箱が置いてあるけれど、何が入っているのだろう?


「つまらない部屋でごめんなさいね」


ドアが開くと同時に、お母さんと葉山くんが中に入ってくる。


「これに制服は入るかしら?帰りは車で送って行くから着替えなくて大丈夫よ」


そう言って紙袋を渡してくれた。


「ありがとうございます」


「いいのよ。良かったら夕食も一緒にどう?」


「そんな!申し訳ないので、お気持ちだけ…」


「そう?時間があるなら食べて行きなさいよ」


「母さん、もういいから。出て行って」


マグカップを2つ持った葉山くんはため息をつく。


「彼女、怪我して昨日退院したばかりなんだ。家の方が落ち着くだろう」


「あらそうなの?それじゃぁまた今度ね」


「はい、是非!」


今度という機会は無さそうな気がするが、笑って答えた。葉山くんのお母さんに会うことができて嬉しかった。