その手をぎゅっと掴めたら。


だから?
その事が脳内を駆け巡る。


冷めた目で私を見る彼に、もう言葉は届かないような気がした。

ここへ来た時の勇気も萎み、口が動いてくれない。伝えたい言葉も、消え失せてしまった。



「とにかくもう大丈夫だから。今までありがとう」


そのお礼の言葉だけは、優しくて。
ずるいと思った。



「…葉山くん、私は……全然、大丈夫じゃないよ」


違う。こんなこと、こんなことを言いに来たわけじゃない。



「私は、葉山くんが好きだから。大好きだから!大丈夫じゃないの!」


ドンっと、思いっきり表札の横の壁を叩く。


そうでもしないと泣いてしまいそうで、まだ叫んでしまいそうで、どうしようもなかった。


「っ…、」


拳から腕に向かって痛みが走る。


「ごめんなさい…」


痛みで目が霞む。葉山くんの顔は見れず、頭を下げる。


みっともない。
人の心が変わることなんて、よくあること。
それに駄々をこねたって何も変わらないのに。
本当に馬鹿みたいだ。