その手をぎゅっと掴めたら。


「返事はなかったけど、彼は頷いた。次に青信号になった時にはちゃんと歩き出してたよ。本当に大丈夫か?ってその後ろ姿を見送った時、気付いたんだ…あ、彼は傘を2本、腕にかけてたの。その1本が、真奈の傘と同じだって」


「…葉山くんに別れ話を切り出されて、動揺して、傘置いて私…逃げたんだ」


私の傘は有名なキャラクターの猫が様々なポーズをして描かれているイラスト入りのビニール傘だ。
ウケ狙いで亜夜が買ってくれたものを愛用していた。


「私からはあいつの方が別れ話をされた側に見えたよ。だから真奈がフッたのかなぁって思ってた」


「そんな、正反対だよ…」


「じゃぁなんで、北斗は傘も差さずに立ち尽くしていたんだろうね」


「私が取り乱したから、罪悪感みたいなものを感じてしまったのかも。彼は優しいから…」


「優しい人が、彼女の入院中にそんな話をする?昨日、階段から落ちた人に、話す内容じゃないと思う。真奈の回復を待ってからでも遅くないよね。はっきり言って、別れ話をするタイミングじゃなかったよ。そんな気遣いもできない男なのかと、ガッカリしたよ」


亜夜の正論を受けて、葉山くんを擁護する言葉が見当たらない。どうして、わざわざ病院まで来て別れ話をしたのだろう。そんな面倒なことをしなくても、学校で言ってくれたら済んだ話だ。

気に留めていなかったけれど、確かに葉山くんらしからぬ言動だと思う。