その手をぎゅっと掴めたら。


私の言葉に亜夜は「ふぅん」と頷いた。
視線はノートに向けられたままだ。

困惑しているのは私の方だから、オーバーなリアクションをとられると、正直痛い。


「葉山くんが、そうしたいって」

「そっか。入院した翌朝のこと?」

「うん、そう」


淡々とした亜夜の反応が有難い。
冷静に話せそうだ。


「私は葉山くんのことが好きだけど、彼はそうじゃないって…すっごく寂しいけど、乗り越えるしかないって思ってるんだ」


亜夜はノートをサイドテーブルに置いて、身体ごとこちらを向いた。


「…真奈が言わなかったから、敢えて言わなかったんだけどさ。あの日、私も北斗に会ったよ」


「え?」


「ここの病院から少し行ったところに交差点があるじゃん。そこに不自然な子がいて、気になって見ちゃった。あの日は雨だったのに、傘も差さずに立ってるの。ずぶ濡れのまま俯き加減で、信号は青になったっていうのに、ぼうっと立ってるんだよ。その手に傘を持ってるのに、差そうとしないの」


「その子が葉山くん?」


傘を差さずに居たから、風邪を引いてしまったのだろうか。



「私、気になって話しかけてみたの。大丈夫?って。そうして彼はやっと顔を上げて、目が合った。あ、イケメンじゃん。って思ったんだ。雨も滴るいい男ってやつ?」


冗談混じりで亜夜が話してくれる。
彼女の笑い声に、肩の力が抜けた。