その手をぎゅっと掴めたら。


「凛ちゃん!」

「凛ちゃん!待って!」


運動神経の良い彼女を追いかけるのは一苦労だったが、階段の踊り場でどうにかその腕を掴むことができた。



「放せよ!」


荒々しく言葉を投げつけられるが、きつい言葉には慣れている。

だって亜夜も言葉は辛辣だから。
その中には隠された優しさや弱さを私は知っている。


葉山くんのクスリの一件では心がもやもやして不安定になったが、今朝、亜夜に話すと随分楽になった。

帰ったらゆっくり話を聞くから、と亜夜に言われて、ひとりで悩まなくていいことに安堵した。


「何かあったの?良かったら、話を聞かせて」


だから凛ちゃんにも話して楽になって欲しい。

このままひとりにさせたくなくて、左腕を掴む力を強める。


「あんたには関係ないよ!」

「関係ないからこそ、言えることもあると思うの」

「うるさい!」


彼女の右手が私の胸ドンっと、押した。

「あ…」


その拍子にふらつき、バランスを崩す。



全力で凛ちゃんを追いかけてきた足は限界で、上手く踏ん張ることができなかった。


次の瞬間にはぐるりと視界が回転して凛ちゃんから、天井に移った。




ちょっと、待ってーー落ちる!?