その手をぎゅっと掴めたら。


散らばった数えきれない本と、紙切れを踏み潰して凛ちゃんは私の前に立った。

「モテ王子と付き合えてるからって言い気になるなよ。あんたなんてすぐに捨てられる!遊びに決まってるじゃん」


目の前の彼女は相変わらず濃いメイクを施し、遊ばせた毛先以外は真っ直ぐな癖のないヘアセットをして、朝から完璧な佇まいだった。


くっきりと引かれたアイラインが彼女の目力を強め、険しい表情でこちらを見ている。

そんな風に観察する余裕が私にはあった。


「私のことは分かったから、なんでこんなことをしてるの?」


「あんたは友達を裏切って、彼氏をとった。最低だと思わない?」


こちらの問いには答えず、凛ちゃんは私を罵倒する言葉を連ねる。


「あんたがモテ王子に頼み込んで、たかが落書きのことを前田先生にも報告したでしょ。次やったら大学への推薦は与えないとまで言われたんだけど。ふざけてる!」


落書き?なんのことだろう。
葉山くんが前田先生に報告してくれていたの?


「悪いのは全部あんたなのに!」


本棚から掴み取った本を力任せに投げつけられ、なんとか避けることに成功した。