その手をぎゅっと掴めたら。


職員室という言い訳をしたけれど、足は全く違う方向に動いた。

正しい判断なんてできない。
今は葉山くんから離れたかった。少しでも遠くに行きたかった。


階段を駆け上がる。
葉山くんの足音は聞こえなかった。


ああ、追いかけてもくれないんだね。


この時間なら誰もいないであろう図書室に入る。


怒りなのか哀しみなのか、苦しみなのか分からないこのぐちゃぐちゃな感情を沈めたかった。


そして何食わぬ顔で教室に戻るんだ。



「なんで……」


本棚と本棚の間に散らばる本。

その上に破られたページがぐちゃぐちゃに丸め捨てられている。


「真奈…」

「凛ちゃん、なにしてるの?」


本を踏みつけて立っていた凛ちゃんの姿を捉えて近付く。


「来るな」


彼女は手に持っていた本を私へと投げつけてくる。容赦なく飛んで来た。


「誰かに言ったら殺す!」


敵意が剥き出しの表情で凛ちゃんは貸出カウンターの上に置いてあったハサミを手に取った。


「嘘じゃないよ。本気だから」


「……」


喚き散らすわけでなく、ひとり静かに学校の本を破り続けていた凛ちゃんの気持ちが少しも理解できず、混乱した。