その手をぎゅっと掴めたら。


学校に行きたくない。
いじめられていた中学時代よりも、凛ちゃんたちと上手くいかなくなった日々よりも、足が重かった。


俯き加減で校門を通り、下駄箱の前で足を止める。


「葉山くん…」

「佐野、おはよう」

「おはよう」


一足先に靴を履き替えていた葉山くんは目の下にクマがあるせいでいつもより顔色が悪い。


「一昨日はごめんなさい」

「体調が悪かったのだから、仕方ないよ。もう大丈夫?」

「おかげさまですっかり良くなったよ。本当にごめんね」


確かにいつも通りの爽やかな笑顔に綻びはない。

だけど私は完璧な葉山くんを見たいわけではないんだ。


「まさかデートの日に風邪を引くなんて、運が悪いよね」


「風邪…も、怖いから、軽症でも無理しちゃダメだよ」


あの日の葉山くんは軽症には見えなかった。
苦しそうだった。


「ありがとう。行こうか」


私が靴を下駄箱にしまうと、葉山くんは教室に向かって歩き出す。


「あ、あの!葉山くん!」


私は彼の腕を、掴んだ。