その手をぎゅっと掴めたら。


大通りを直進すれば駅が見えてきて、交通の便は良いし、人通りも多く、飲食店を開くにはもってこいの場所だと思う。

車の行き交いも盛んだからドライブスルーも流行りそうだ。

閉店を惜しんでくれた常連客は新しい喫茶店を見つけただろうか。ほっとできる空間を大切に祖父は経営してきた。木のカウンターや少し暗めの照明であったり、アンティークな小物を飾ってみたり、祖父は工夫を凝らしていた。

私にとってもさの喫茶は安心できる空間だから。
葉山くんにもそう思ってもらえるといいな…。

楽しい気持ちが身体を前のめりにさせて、40分前に駅に着いてしまった。

早すぎた…。

葉山くんが降りてくるであろう改札がよく見えるベンチに座り、トートバッグからリップを取り出す。


本当は真っ赤な口紅を買おうと思ったが、葉山くんの視線が唇にいってしまいそうで止めておいた。


自分からキスして、
とおねだりしているみたいじゃない?
そ、そんなの無理…。


電車が来たようで、改札に人が溢れる。

南ヶ丘駅から少し進むと映画館や水族館が入った複合施設があり、休日は特に混雑する。


葉山くんのことを見逃さないように注意しなければならないけど、さすがにまだ時間があるのでのんびりと周囲を見渡す。


これまで意識してこなかったカップルたちの姿。今はじっくり観察してしまっている。


あっ。
私の前を通り過ぎるカップルと目が合い、慌てて視線を逸らした先にーー


改札を通る葉山くんの姿を見つけた。