「ねぇ、佐野」
葉山くんに名前を呼ばれ、小さく頷く。
「前に言ってたよね。佐野の家は喫茶店で、コーヒーを淹れてるって」
「うん。一応、常連さんに振る舞っているんだけど、祖父の真似して淹れているだけなんだよね」
最近はインターネットが普及して様々な情報が手に入るけれど、経験に勝るものはないのかな。
「今度、飲みに行ってもいい?」
え?
前に誘おうとして言葉を遮られたことを思い出す。
いいの?来てくれるの?
「俺、佐野の淹れたコーヒーが飲みたい」
はにかみ顔で葉山くんが言うものだから、私の顔も火照ってくる。
「前に水筒に淹れてきてもらったけど、淹れたても飲みたいって思ったんだ。美味かったから」
「もちろんだよ、いつでも来て!」
「じゃぁ次の土曜に」
「うん、ぜひ!」
私の淹れるコーヒーに対して葉山くんが合格点を出すとは思えないけれど、単純に嬉しい。
早く葉山くん好みのコーヒーを淹れられるといいな。
別れ際、私の頭をポンポンと軽く叩いてから、葉山くんは人混みに紛れていった。


