その手をぎゅっと掴めたら。


なにか失言しましたか?
そう前田先生に問おうと口を開けば、ノックの音に掻き消された。

次の相談者だろう。

「失礼します」


ゆっくりと扉を開けて中に入って来たのは先程の男子中学生だった。


「香川 英知(かがわ えいち)と申します。北斗さんとは同じテニスクラブに通っていました。本日は宜しくお願い致します」


第一印象と変わらず、しっかりとした子だ。

それにしても今日は新しい葉山くんのことを知れる日だ。

昔はブラックコーヒーが苦手で、親友が理由でうちの高校に来て、テニスクラブに通っていた。どれも初耳だ。


「そうか、香川くんは葉山と知り合いなのか。ただ残念なことにうちはテニス部が廃部になっていてね」


「…そのようですね。高校に入っても地元のテニスクラブに通うつもりですので、そこは問題ないです」


「良かった。早速だけど他に気になることなど、ありますか?なんでもいいからね」


「はい。廊下に、成績上位者が張り出されておりましたが、毎回されているのですか?」


「ええ。周知することが向上心を仰ぎ、勉強意欲に繋がると考えて貼っております」


前田先生が答える。
もうその手は拳を握ってはいない。


「それでは張り出された経験はありますか?」


ぐっと言葉に詰まる。
張り出されたこともなければ、惜しい順位の経験もなく曖昧に笑うしかなかった。

さっきの会話で葉山くんも掲載されてないと言ってたし…。