その手をぎゅっと掴めたら。


まず最初の質問者、森田さん一家は物腰が柔らかく、私たち年下の者にも丁寧に質問してくれた。

先生の言う通り親御さんは大学への進学率やその対策について聞いてきた。

幸いにも森田さんの娘さんは部活には興味がないようで、私たちが帰宅部だと知って安堵したようだ。勉強の妨げになるような部活には入らせたくないという親御さんの意見もあった。

それじゃぁ最後に、という前置きがあった後、きちんとスーツを着こなした父親が前のめりで聞いてきた。

「君たちはどうして、こちらの高校を選んだの?」


この質問を前田先生に丸投げするわけにはいかず、私は間髪空けずに答えた。


「すみません…正直に答えます。私は長野県出身で、両親とは離れて祖父の家でお世話になる予定で高校から上京してきました。祖父の家から通える高校で、私の頭で行ける一番偏差値の高いところが、当校でした」


両親、というのは語弊があるかな。
今の私には父しかいないし、祖父もいない。


「やはり偏差値で選ぶケースが多いように思えるよ。うちも実家から通える距離で、偏差値が高いところを狙う予定だからね」

私の答えは的外れではなかったようだ。
親御さんは頷いてくれた。


「僕は親友と同じ高校に行きたいという理由でした。親友は当校の生徒の自由を尊重する校風に憧れていました。選択科目などが多いところもそのひとつかと思います」


さすが、葉山くん。学校の良さを伝えつつ答えてる…。

でも親友はうちの高校には来なかったってことだよね?葉山くんが誰かと必要以上に仲良くしているところを見たことがないし。


「選択科目か…それは確かに魅力だね」


何気なく葉山くんの横顔を見た先で、彼の隣りに座る前田先生の表情が見えた。

口を結び、何かを考え込むような表情だ。
机の上に置かれた右手は拳を作り、力が込められているように見えた。

あれ?
私、まずいことを発言してしまったのかな。


一瞬焦るが、森田さん一家は椅子から立ち上がり、頭を下げた。


「貴重なお話をありがとうございました。ぜひ受験させていただきます」


私たちも立ち上がり頭を下げて、森田さん一家を見送った。