その手をぎゅっと掴めたら。


すぐに会話が終了して静かになってしまった後、また葉山くんから沈黙を破った。


「ひとりで来たの?」

「はい。母が急な仕事で来れなくなって」

「そっか。英知(えいち)の家からだと、少し遠かったでしょう」


中学生で"母"?最近の子はしっかりしてるな。


「はい」

「……」

「……」


うーん。私がいたら話しにくいのかな。席を外すと申し出ようとしたところで、英知くんは少し日に焼けた腕を伸ばし、ラーメンを指した。


ラーメン?
彼の空になったカレーの容器を見て、ラーメンが食べたかったのかなぁと。呑気なことを考えていれば、


「北斗さん、ブラックコーヒー、飲めるようになったんですね」


驚いたように英知くんは言った。

彼が指したのはコーヒーの缶だったようだ。


「まぁね」

「……そうですか」


答えた葉山くんの声に感情はなく、英知くんもまたぼそりと返事した。

なに?
張り詰めた空気を感じたが、すぐに葉山くんは笑った。


「俺も、大人になったってことかな」


茶目っ気たっぷりに葉山くんが言うと、心なしか英知くんの頬が緩んだ気がした。


葉山くんは私のことも含めて他者の心を落ち着かせることが得意なのかな。