手が届くはずだった夢が儚く消えた。

 家族同然で共同経営者になるはずだった凜々花。いくら信用していても共同で資金を管理するなんてやめておくべきだったかもしれない。

「警察に……いや、でも名義が……ダメだ、どうしていいのかわからない」
 とりあえず働いているカフェのオーナーに相談することにした。

 私のカフェの夢を知り応援してくれ、凜々花とも面識がある彼なら、冷静な意見を言ってくれるかもしれない。

 不思議と涙は出てこなかった。
 ショックが大きすぎると人間は泣くことすらできないと、どこかで聞いたことがあるけれど本当だ。そんなこと、実際には体験したくなかったけれど。

 アパートから道路に出ると、バイクのエンジン音が聞こえ、思わず端によける。

「はぁ」
 もう、ため息しか出ない。
 ここからまたお金をためる生活が数年続くと思うと、体も心も鉛のように重苦しく感じられる。
 そうだ、もう一度凜々花に電話してみようと思い、立ち止まってトートバッグの中を探ろうとした瞬間だった。左肩から提げていたトートバッグが、急にぐいっと引っ張られた――。

「え!?」
 反射的に引っ張られた側へと顔を向けると、バイクの後方に乗っている男が私のトートバッグを掴んでいるのが見えた。

 ひったくり!?

 そう思った時にはバランスを崩し、近づいてくるコンクリートが目に飛び込んできていた。

 ガッと頭を打ちつけた衝撃を感じると同時に、意識も視界も漆黒のベールで覆われていく。
 手や頬に伝わるのは硬くてざらっとしたコンクリートの感触と、生温かい液体の気持ち悪さ。
 あれ以上最悪なことがないと思っていたのに、不幸はこんなにも連続するなんて。

 遠くで響く女性の悲鳴を聞きながら、やがて私の意識はフェードアウトしていった。