「では、メニューがお決まりになりましたら、端にある呼び鈴を鳴らしてお知らせくださいね」
 軽く会釈をしてふたりのテーブルから立ち去ろうとしたら、背後から「あっ」というふたりの声が届き振り返った。

「すみません。シルフィさんが行ってしまったので、つい……」
「不覚にも俺もだ。すまない」
 なるほど、ふたりともメイドを気に入ってくれたんだ。

「メイドを気に入ってくださってありがとうございます」
「あ、いえ。私はアイザック様とちがって、シルフィさんのメイド姿だから好きなんです!」
「な…! 俺だってメイドなら誰でもいいわけじゃない」
 ふたりは火花を散らし始めた。

 学園内でこんなふうに打ち解けて話すふたりを見たことがない。
 それにマイカが私にこんなに饒舌に話してくれるなんて、ちょっと驚いた。

「ほかのお嬢様たちへの給仕もありますので、私一度下がってもよろしいでしょうか? ご用の時にお呼びいただければ……」
「そうですわよね。申し訳ありませんでした。メニューが決まったらお呼びします」
「すまない、シルフィ。仕事の邪魔をして」
「いえ、問題ありません。では失礼します」
 会釈してカウンターへと向かうと、ルイーザがティーカップを片づけているところだった。

 彼女は私を見るとクスクスと笑った。

「シルフィ、大人気ね。まさか、あのふたりが来るなんて、偶然ってすごい」
「びっくりして固まっちゃったわ。ねぇ、マイカは誰かに話したりしないかな? アイザックは黙っていてくれると思うけれど」
「マイカならきっと大丈夫。出禁になりたくないだろうし。あっ、メニュー決まったみたいよ」
 アイザックたちの方を見ると、ふたりは呼び鈴を巡って争っていた。まるで子供みたいだ。

「ねぇ、シルフィ。私が行ってきてもいい? どんな顔をするのか見てみたい」
 ルイーザがいたずらっぽい笑みを浮かべて言う。

「どうぞ」
 うちは指名制ではないので、空いているほうが給仕をする。
「あっ、呼び鈴もちょうど鳴ったみたいね。じゃあ、行ってくるわ」
 ルイーザはオーダー票を持つと、スキップしそうなくらい軽い足取りで彼らのもとへと向かった。
 ふたりは口をぽかんと開けてルイーザを見つめている。

 かと思うと、ふたりはカウンターにいる私の方へと視線を向け、ルイーザになにかを言いだした。それに対してルイーザが返事をすると、アイザックたちはテーブルへと力なく伏せた。

 そんなふたりを見て、ルイーザがすごく楽しそうに笑っている。

 その後、カフェはいつものように混み始めた。
 私は給仕で手がいっぱいになり、結局アイザックたちが帰るまで、彼らと言葉を交わす余裕もなく動き回っていた。