(エクレール視点)

「エクレール! お前がいいアイデアがあると言ったから、グラジ商会に大金を払ってやったんだぞ。それなのにこのざまだ。次の策は考えているんだろうな」
 初夏が近づき暑苦しいサロンに、むさ苦しいお父様の怒号が響き渡っていく。

 自分ではなにも考えなかったくせに、人のせいにするなんて──。

 怒りのあまり、私は手にしているティーカップを床に叩きつけたい衝動に駆られる。
 優雅なお茶の時間を台無しにされただけでなく、私が考えた案を一方的に責められた。

 買収したグラジ商会から、アッシャードと契約している商会や問屋に対して他国のリネンを破格の値段で取引させた。しかも、一年間の契約で。

 タダ同然の値段でアッシャードと同等のクオリティのリネンが手に入るとなると、ほとんどの商会と問屋が食いついたのは言うまでもない。
 それを売りつければ大きな儲けになるのだから。

 工場と長年付き合いがある商会以外は、諸手をあげて案に乗った。
 その結果、多くの商会や問屋がアッシャードの工場から手を引き、工場の経営は行き詰まった。

 そして、学園内でいつも絶望的な顔をしているシルフィがぶざまで笑えた。
 負け犬すぎて遠ぼえすらできないなんて、かわいそう。