(アイザック視点)


「……帰ったか」
 俺はシルフィが去っていった扉を名残惜しく見つめていた。
 やっと念願叶って、彼女のそばにいられる生活がはじまった。
 俺の目はシルフィに釘付けだった。初めて出会った頃からずっと──。

 ──四年前。お祖母様いわく、俺の精神は壊れる寸前だったらしい。

 俺の出身はマルフィと言っているが、実はグランツという別の国だ。
 誰かに俺の正体を知られると身に危険が及ぶかもしれないということで、お祖母様に出身地を明かすことを口止めされていたのだ。

 待望の跡取りとして、生まれた時から多くの人々の上に立つ人生を背負う運命。
 俺が生まれた国は、西大陸の覇者と呼ばれる軍事国家で、父上も剣術と戦術に秀でた希有な国王だ。そのため、俺も物心ついた頃から、様々な武術の厳しい鍛錬を義務づけられていた。

 本来ならば、ある程度の鍛錬を積めば、上達の兆しが見えてくるのだろうが、そのころの俺は体も小さく、全く上達しなかった。父上はいつも苛立ちをあらわにしていた。

 ただでさえつらいのに『強くなれ!』と言われ続け、心が消耗する毎日だった。
 あの頃の俺は、強くなんてなりたくないとさえ思っていた。

 向上心が湧かないから、余計に鍛錬が嫌になるという負のループ。

 毎日、地獄だ──そう思っていつしか俺は、心身共に不安定になっていた。
 遊ぶことも甘えることも許されずにいれば、心身共に追いつめられていくのは当然のことだろう。

 俺の異変に最初気づいたのは、お祖母様だった。
 だんだん言葉や表情をなくしていく孫を心配し父上やグランツ国から引き離すことを決断したのだ。
 お祖母様は俺をミニム王国にいるお祖母様の友人宅へ避難させ、ウォルガーの誕生日パーティーへ連れていってくれた。それが縁でシルフィたちに出会った。