悪役令嬢はお断りします!~二度目の人生なので、好きにさせてもらいます~

 夜会の後のことはお父様たちに任せて、私はアイザックと共に彼の屋敷へ。
 通されたのは、アイザックの部屋だった。

 設置されているソファに座っているんだけれど、アイザックはソファには座らず床にひざまずいて私の手をずっと握っている。
 まるで大型犬が怒られているみたいに、筋肉質な体を丸めてしゅんとしていた。

「怒っているよな……ずっとグランツの王太子だということを黙っていたから……」
 怒るはずなんてない。ただ、心臓が止まりそうになるくらいに驚愕した。

 マルフィ出身というのを疑うことなく信じていたし、彼からグランツの話を一度も聞いたことがないため、まったく結びつかなかったから。

 ただ、『家が武術や剣術に厳しい』って言っていたのは、グランツの王太子殿下だからか!と、ちょっとだけ思った。だからといって、そこから彼の身分を推測できるはずもなかった。

「怒っていないよ。ただ、びっくりはしたかな」
 私は微笑んで、アイザックが握ってくれている手を空いているもう片方の手で包んだ。
 私の手を楽に包む大きくて温かなこの手は、何度私のことを守ってくれただろうか。
 指に剣だこができているこの手も愛しい。

「床じゃなくて隣に来て」
 アイザックは私の言葉にうなずくと隣に座った。

「すまない。いろいろ事情があって身分を隠していたんだ」
「もういいよ。アイザックはアイザックだもの。グランツの王子様でも変わらないわ」
「ありがとう。受け入れてくれて」
 私は首を横に振ると微笑む。

 アイザックがグランツの王太子殿下だったと知っても変わらない。
 大好きなままだ。

 手を伸ばして彼の頬に触れると、抱き寄せられた。
 広い胸板は硬くてたくましい。

 触れてしまえば、余計に彼への想いがあふれてきて、私は彼の背に手を回した。
 温かく心地よい彼の体温を感じていると、アイザックがゆっくりと口を開く。

「シルフィ。愛している。ずっと……」
「え?」
 私は顔を上げてアイザックを見た。

 自分の都合がいいように脳内で変換されたのだろうか。
 アイザックが愛していると告げたように聞こえた気がする。

「ねぇ、もう一度言って?」
「愛している」
「──っ」
 はっきりと耳に届いた言葉は私の心を温かさで満たしていく。
 暖炉に灯した火がゆっくりと薪に広がっていくかのように。