──ウォルガー、知っていたの!?
まさか、知らなかったのは私だけなのだろうか。
「どうして校章が最下位ランクのブロンズなのよ? 大国の王太子ならプラチナでしょ?」
「校章の制度に関する規定を読め。プラチナは、ミニム王国の王族または婚約者って書いてあるだろうが。俺はミニムの王太子ではないからな」
「嘘よ! ありえないわ。そんな大国の王太子がどうしてミニムに留学してくるのよ。ミニム王国は、特別教育に優れているわけでもないのに」
エクレール様がヒステリックにわめき散らす。
「気が合いますわね。私も入学式でお見かけした時にそう思いましたわ。ですが、すぐに理由が判明しました。祖国では冷血無慈悲な最強の氷の王太子殿下が優しい眼差しでシルフィ様を見つめていらしたので」
落ち着いた口調でマイカが言った。
「またシルフィ、シルフィ。シルフィばかり! こんな女のどこがいいのよ。私の方が美しいし優れているのに。四大侯爵だから? 本当の四大侯爵は私の方なのよ。シルフィが持っているものはすべて私のものなのに! 盗人は消えればいい」
「まさか、そんなくだらないことでシルフィの命を狙ったのか?」
「命を狙う……?」
殿下がエクレール様の方を見るが、彼女は背を丸めながら両手で頭をかかえて激しく横に振っている。
エクレール様は、「本当は私が四大侯爵令嬢よ」というフレーズを何度もつぶやいている。
まさか、これほどにも強い執着があるなんて。
エクレール様の変貌ぶりに対して、私は彼女が四大侯爵の呪縛から解放されるように両手を組んで祈った。
「エオニオも聞いていると思うが、夏に襲撃事件があったのを覚えているか?」
「あぁ、もちろん。ルイーザが狙われた事件だろ」
「ルイーザは狙われていない。本当のターゲットはシルフィだったんだ」
「なんだって?」
「表向きは王太子殿下の婚約者襲撃事件となっている。事件はまだ調査中になっているが、実のところ調査はとっくに終わっていた。エクレールの身柄に関してうちとミニム王国で協議中だったんだ。ミニムが穏便に済ませたいばかりに協議が難航していた」
「そんな……じゃあ、僕は……」
「だから言っただろ? 破滅の恋だと。完全に騙されていたな。エクレールの身柄はグランツに引き渡してもらう。君の沙汰はミニム王国が下すそうだ」
殿下が崩れ落ちるように床に膝をつけば、ルイーザがゆっくりと近づきかがみ込んで殿下の肩に手を添える。
なにか言葉をかけようと唇を動かしたが、彼女は痛々しい表情を浮かべると振り払うように首を横に振った。
生まれた時からの付き合いだっただけに、言葉にできない思いがいっぱいあるのかもしれない。十六年間、一緒にいたのだから……。
「連れていけ」
アイザックが右手を掲げて声をあげると、どこからともなく黒い軍服を着た男たちが現れエクレール様を拘束した。
彼らが着用している軍服はアイザックと似ている。
左腕部分にグランツ国の紋章が入っているのまでは一緒なんだけれど、ボタンや襟もとのパイピングの色など部分的に違う箇所がある。
もしかして、グランツ国の騎士なのかもしれない。
遠くからラバーチェ伯爵の声が聞こえてきたので、エクレール様のお父様たちも拘束されたのだろう。
「アイザック。エクレール様はどうなるの?」
私は騎士たちに拘束され連れていかれる彼女を見つめながら、尋ねた。
自我が崩壊し始めているのか、彼女は髪を振り乱しながらなにか叫んでいるけれど、はっきりとした言葉で私の耳には届いてこない。
あんなにも美しかったエクレール様と同一人物にはとても思えないわ。まるで呪いを受けたかのように、威厳を失い変わり果てている。
