「頭おかしいんじゃないの!? シルフィのためにそんな大金使うなんて」
「私はシルフィ様のためならば、お金は惜しみなく使いますわ。ありあまるお金はシルフィ様のために注ぎます。それに、そんな大金って言ってもたかが一億ルギじゃないですか」
「金の力を使って覆った証言なんて信憑性がない。逆にエクレールが罠にはめられた可能性もある。それに君は自分が言ったように庶民だ。信じるには身分が低い」
「はぁ?」
マイカが眉をひそめながら口を開こうとした時だった。アイザックの言葉が場を支配したのは。
「──では、身分の高い者の話ならば信じられるということか? それならば実に残念だ。エオニオ・ラグ・シャルード」
その声は、名指しで呼ばれた殿下だけではなく、周りにいる人々も凍らせる冷たい声音だった。全員、身を固くして動けずにいる。
「アイザック……?」
ゆっくりと顔を上げてアイザックを見ると、威厳あふれる顔つきをしている。
誰かに乗り移られたと言われても信じるくらいに、今のアイザックは私が知るアイザックとは別人だ。
数ミリでも動いたら刃物を首もとに突きつけられるのでは? という緊張感が大広間に走っている中、最初に動いたのはエクレール様だった。
「ちょっと! たかがブロンズが殿下を呼び捨てなんて不敬だわ。謝罪しなさいよ」
「ブロンズ? あぁ、校章の色か。たしかにそのほかだな。俺はミニム王国の王族でも貴族でもない。なので、そのほかのブロンズだ」
「どういう意味よ?」
「もういいんじゃないですか、殿下。これ以上長引かせるとシルフィ様のお目汚しになってしまいます」
マイカが一歩前に出て言うと、殿下は自分の顔を指さして首をかしげてしまう。
「いいえ。私が言った殿下というのは、あなたのことではありませんわ。私の祖国、グランツの王太子殿下であるアイザック様です」
マイカはドレスの裾を持つと片足をうしろに引き、深く膝を曲げてアイザックに礼をとる。
まさか、アイザックがグランツの王太子殿下!?
マイカが勘違いしている可能性もよぎったけれど、オルニス商会は西大陸を牛耳っている上にオルニス商会とグランツ国は建国からの付き合いでかなり親交が深い。
間違えることはないだろう。
でも、アイザックってマルフィ国出身って言っていたはず。もしかして、身分を隠していたのだろうか。グランツほどの大国ならば、命を狙われる可能性も高いし。
頭が真っ白になり告げられた事実を受け入れることができず、私はウォルガーの方を見る。
すると彼は顔の前で両手を合わせて「ごめん」と唇を動かした。
