「私が見ているこの光景もゲームと同じ。これは偶然?」
 寝衣に身を包んでいる私は眉を下げ、不安に包まれていた。

 部屋で鳴る些細な物音にすら恐怖を感じて、身をびくつかせてしまう自分がいる。
 このまま安眠なんてできないから、持ってきた本を読みながら朝まで過ごすしかない。

 私は再度嘆息を吐き出すと、ベッドの上に置いてある薄手のカーディガンを手に取り、寝衣の上に羽織る。

「少しでも落ち着けるように蜂蜜たっぷりのミルクティーをもらってこよう」
 私は扉を開けた。
 すると、廊下は壁上部に設置されている燭台によって、温かなオレンジ色の光に包まれていた。

 静寂のため、まるで世界に自分しかいないような感覚になって怖くなっていると、「シルフィ?」という耳になじんだ声が届く。
 声を聞いただけで、安心して全身の力が抜けていった。

「アイザック」
 声のした方向へと顔を向けると、手に書類を持っているアイザックがいた。

「どうした?」
「怖くて眠れないから……ちょっと……」
「もしかして、ウォルガーの所に行くつもりだったのか?」
 アイザックが沈痛な表情を浮かべだしたので、私は大きく首を横に振って否定した。

「眠れないからミルクティーをもらいにいくところだったの」
「……そうか、よかった。てっきりウォルガーの所に行くのかと」
「どうしてウォルガーが出てくるの?」
 まったくウォルガーのことを想像していなかったので、不思議に思い理由を聞いてみた。
 ちょっと前に玄関ホールで見かけたけれど、真剣な表情で騎士と話し合いをしていたから声をかけていない。
 今現在どこにいるか不明なので、会いにいくにも行けないし。

「婚約者だし強い信頼関係を築いている」
「私もウォルガーも婚約者という肩書きは持っているわ。でも、そういう色恋はまったくないの。もちろん、家族に近い存在だから信頼関係はある。それに──」
 言葉がこれ以上続くことはなかった。

 アイザックのことが好き――。

 そう伝えることは今の私にはできないからだ。
 私の婚約は陛下の御心で決められたものなので、当人同士の意思は関係ないし覆すことは不可能に近い。

 それに怖かった。
 好きだと告げた時の彼の反応が……。