「スピカお嬢様、今車の手配をしておりますのでもうしばらくお待ちくださいませ」


(車の手配をしている? 私が席を立つ前に車を停めておくのが道理というものではないかしら? 主人を待たせるなんて、相変わらずうちの執事は仕事ができないようね)


 そんな風に思いながら氷のような視線を送って見せたところで、この執事は気にも留めない。


(そろそろお父様に言ってクビにするべきかもしれないわね)


 そんな風に思いながらも待つこと数分、やっといつものロールスロイスが目の前に停車した。

 私はそれに乗って”ティンクルスター学園”に向かう途中、同じ制服を着た、マッシュルームのような変わったヘアスタイルをした令嬢が街を歩いているところを見かけた。

 ティンクルスター学園は爵位のある家柄の者たちが通う名門校。皆車で登校するのが一般的だというのに……?

 不思議な光景を見たと思いながらも、その姿はあっさりと後方彼方へと消えて行った。そんな光景すら忘れた頃に、車は学園の入り口にゆっくりと停まった。