「女の子ならいないよ、葉月」
「そんな心配してないよ、信じてるから」



嘘つき。一年と少しの間を一緒に過ごしてきたのに。

彼が下心からのメリットが働かない限り、お風呂上がりのようやく乾いた頃の髪の毛に熱を通してまでセットをしないことだって、とうの昔に判明していた。



「私が起きる前には帰ってきて」
「分かった」



その後もごめんね、と四回ほど詫びの言葉を入れた彼は、多分私の事を愛している。

形なりにも、私は彼に愛されている。


丁寧に私のご機嫌を取って、「あんまり飲まないから」なんて許しを得なおして。

私との関係が壊れる一線を越さなかったことに安堵した様子を垣間見せて、玄関をくぐって外に出ていくその背中は、必ず一度、私のことを振り返る。

だから次の日、目が覚めた時のベットがやけに広くても、シーツに私の熱しか残っていなくても。


彼が私以外に向ける感情が一夜だけのものだと知っているから、枕を濡らしてしまう前にと、雑に袖口で目元を拭うのだ。


不満があるなら話して、だなんて。そんなの両手の指で数え折れないほどにはあるけれど。