なんて、珍しく懇願めいたことを思ってみたけれど、やはり神様なんてものは存在しねぇらしい。

「…………っ、て……が…………の……好き、だって、」
「あ?」
「……すごく、タイプだって、好き、だって……恋人がいても、関係ないって……そんなの、言われたら、」

 諦めたように、ぽつり、ぼそりと結愛は言葉を紡ぐ。現状に至った理由を述べているのだろうが、聞きたくねぇって気持ちの方が前面に出てくる。それくらい、ストン、と落ちてきた。【浮気】という、漢字二文字が。
 何で。どうして。頭の中でそれらがぐるぐる回る。
 好き、タイプ、恋人なんざ関係ねぇ。そう言われたから、何だってンだ。なぁ。

「……は……意味、分かンねぇ、」

 俺の方が、結愛を好きだし、結愛の全部がタイプで、男がいると勘違いしてたときだって、関係ねぇって思ってた。だから、あいつが、あの茶髪が結愛に対してそう思うのは理解できる。俺だって同じことをしようとした。そんな感情を(いだ)いてしまうのは仕方ねぇと思う。
 でも、それとこれとは話は別だ。自分のことを棚に上げているのは分かっているが、容認なんざできるわけねぇ。

「……好きじゃ、ねぇンか、」
「……え」
「……結愛は、俺が、好きなんじゃねぇのか」

 頬に触れていた手を降ろして、目の前にいる結愛の白くて小さな手を握れば、ありとあらゆる負の感情が溢れて、ぽろぽろとこぼれ出す。

「……何で、」
「っ」
「っ何で……!」

 思わず、手に、力がこもった。
 瞬間、痛かったのだろう、結愛の表情が歪む。それと同時に、ふわりと知らない匂いが香った。