「ビ、ビール?」
『マスター、
ちょい待って!それまずいよ』
コーヒーに口を
つけようとしたフミさんが
慌ててマスターを
止めようとしたけど
マスターは完全に無視。
"………これ?"
差し出されたビールを見て
驚いた俺は
慌てて顔をあげた。
マスターは俺を見てもいない。
ただカウンター越しに
タバコをふかしながら
新聞を広げていた。
静まり返った店内に
俺とマスターだけ……
二人だけなんて
全く気付かなかった。
目の前のビールに目を戻す。
コレは……
"なんだったっけ………"
不思議そうにビールを
見つめる俺をみて
眉間にシワを寄せるマスター
"ビールだろ?酒だ、酒"
"………ビール…"
ビールって…なんだっけ?
記憶がないけど、
全てじゃない。
物の名前は
ほとんど覚えていたんだ。
だけど時々、
すっかり記憶から
抜けているものもあって
どうして抜けているのか
それは
"ビールわかんねーの?
めずらしいな。兄ちゃん。
これは薬だ。薬。
気分良くなって、
嫌なことぜーんぶ
どうでも良くなっちまう薬!"
どうしてすっぽり
頭から消えているか
それは
記憶があるころから
自分に不必要だからだと
気づくのは、
もう少しあとの話。
