『さすがに二ヶ月も
点滴だけで生きていたんだ。
地面に足を付けても
立てなくて、
自分の体が
思うように操れなかった。』
それでも走った。
縺れる足を前に出して、
遠くに
遠くに行かなくては……って。
だけどなんせ記憶がない。
知っている土地なんか
一つも無い。
夜中に病院をでて
ひたすら走る。
走れなくても…
夜が明けると
さすがに目立った。
ここまできて通報でもされて
あの場所へ戻りたくなかった。
だから公園の隅っこで過ごした。
眠れなかった。
目を閉じても
浮かぶのは妻のあの顔。
罪悪感?
妻を覚えていないから?
どんなに愛していたか?
わからない。
わからないけれど
恐怖はますます増していく。
日が暮れて、また逃げる。
なるべく遠くへ。
彼女から
自分の知らない自分を
知っているすべてから
逃げたかった。
当てなんかない。
知り合いも
誰ひとり覚えていない。
それでも体は動いていた。
そして
気がついたら
『柚ちゃんが
声をかけてくれていた。』
疲れきっていた。
心も
身体も
悲鳴をあげた。
