フミスタ!!!






時計の針は10時を回っていた。





「家、
どこにあるんですか?


……って言っても
車があったりするわけじゃないし、

あ、あっても免許もないか。


すいません。


送れないけど、


家族の方
心配してるんじゃないかと
思います。」



『家……か。』




「うーん。


……あの、


何があったかはわからないけど、
今日着ていた服
病院のですよね?


どこか悪いなら
なおさら心配してますよ。」




『心配……


………してるだろうね』



彼は目を伏せて
左手の薬指を見た。





「奥さん、いるんですね」




『…みたいだね。』




そしてその指輪を外した。



すごく辛そうな顔をしてーー




「……喧嘩、したんですか?」





あたしのその言葉には、
無言のまま、


彼は指輪の内側を見る。




「電車なくなっ『俺の名前……』




「え?」



『ブンかな?フミかな?』




「は?」



『この指輪、
少しきついんだ。


太ったんだろうね』




なにを言っているのか
わからなかった。


冗談をいっているのかとすら、思った。


でもその頬に
一筋の涙が流れているのを




あたしは見逃さなかった。






『わからないんだ。


……わからないんだよ、何もかも。


すべてが、

わからないん…だ』




彼は片手で顔を隠した

絶望を味わったことはまだない。


だから


彼の流す涙の訳を
理解することも
共感することも


あたしにはできない。




そんな簡単なものでは
ないんだ、と思った。




彼を


両手で包んでいたのは、




彼の心が、
壊れてしまうんじゃないか

と思ったから。



彼の心が限界の悲鳴を
あげていたから。



胸が苦しくて、


痛くて、




気がついたら、


あなたの背中をなでながら、




泣いていた。





『ごめん……』




声がでないかわりに、
彼を力いっぱい抱きしめた。

















『昨日までの記憶が、







すべて








ないんだーーーーー』






















これが彼との出会い。



あたしが出逢ったのは


何もかもない、





あなたでした。








名前すらないあなたでした。