『何チャン?』
「え?」
『名前。
なんて呼べば
いいのかなって思って』
「あぁ、柚(ユズ)です。
里田 柚奈。
柚でいいです。」
『柚…チャンね。
オッケー、覚えた。』
すると、
『………………』
彼は急に黙りこんだ。
そして、
またあの悲しそうな顔をした。
「あの…………?」
この人は一体
何を背負っているんだろう。
何がこの人をこんなに
傷つけたんだろう。
『ごめん……
俺、ないんだ』
「え?」
『名前』
そう言ってまた謝った。
名前がない?
「…………えっと……」
そんなわけじゃない。
そんなハズがない。
言えないんだ。
言ってはいけない
理由があるんだ。
きっと。
あたしが土足でこの人の心に
踏み入れる必要はない。
この人の傷がどんなものだとしても
あたしには関係ないんだから。
「いいですよ」
『え?』
「いいです、言わなくて」
あたしはニカッと笑う。
『…………』
「あとでゆっくり呼び名、
考えます」
別に本名があたしにとって
何になるわけではないから。
『………うん。
やっぱりそっちがいいよ』
「は?」
『笑った顔!
今日初めて見たから。
うん。
そっちが全然可愛い』
「か、かわ……いくないです…///」
あたしに優しく笑ってくれる
あなたのその笑顔は
やはりどこか悲しくて
あなたの心の傷が
ズキズキと音を立てて
軋んでいるのを感じた。
今日初めて会った
あなたの本当の笑顔を
見てみたい、
なんて
思った自分がいた。
