すると社長は
真剣な眼差しで言う。
「木瀬を迎えに来たんだ」
「え…」
思いも寄らない言葉に
イトカはドクン…と心臓が脈打つ。
「迎えって…
え、だってそれだと社長がッ」
「安心しろ。
俺は自分の席を降りないし
お前との婚約も解消されずに済んだ。
どっちも総会で決定されたんだ」
「ちょっと待ってッ
社長が辞めるか私がいなくなるか
その2つの選択肢だけだったはず!
何をどうやって覆したんです!?」
「言ったはずだ。
俺は往生際が悪いと。
ついでに性格も悪いからな。
一筋縄じゃいかなかったが
言いたい事は言わせてもらった。
その結果が今俺がココに来た理由だ」
胸を張ってカッコいい事を言っているように聞こえるが
往生際と性格が悪いって
自分で言ってしまっている辺りどうかと思う。
が、しかし。
そう思いながらもイトカは
その気持ちは素直に嬉しかった。
社長自身の今後が懸かっているのに
自分のために悩み考えて
最善を尽くしてくれたのだから。
「私…戻っていいんですね…」
イトカの瞳から
一滴の涙が零れた。



