想いが通じ合ったとは言え
イトカの中で決別の意志は変わらず
むしろ社長の自分に対する愛情を感じられたからこそ
離れる事への決意がしっかり固まった。


せっかく両想いなのに
誰だって好きな人と離れる事を望む者はいないし
自ら悲しい道を選ぶなんてしたくない。

しかし、好きだからこそ
時には相手を守って
自分が犠牲にならないといけない事もある。


イトカはそう自分に言い聞かせて
翌朝、荷物をすべてまとめた。


『短い間でしたがお世話になりました。
 住む世界の違いすぎる環境と
 悪魔のような社長の下で働いた事
 我ながら本当に、頑張ったと思います。
 だから私は実家に帰り
 田舎暮らしに戻ってしばらく落ち着きます。
 今後の会社の益々のご発展と社長のご成功を
 心より願っています。
 追伸:社長、甘いモノの克服に努力してください』



『貴方を大切に想っております』


1枚の手紙に想いを記し
最後にそう綴ると
社長の家に残して去っていった。



奇しくもその日は
社長が上層部に最終意思決定を伝え
彼の進退が決まる日。


そして同時に
イトカがこの街に…
社長の元に最初に来た
同じ日でもある。