「確かにそうすれば早い話だ。
 俺は自分の立場を失わなくて済むのだからな。
 それくらいの事は、わかっている…」

「じゃぁなぜッ」

「わかっていてもな…
 それだけは、どうしてもしたくないんだ」


ハッキリと答える社長の表情からは
先程までの疲労感はなく
どこか決意にも似た力強さがあった。

その言葉の中には
『辞めてでも守りたい』
そんな風な意味合いでしか聞こえず
鮫島は悔しさばかりが込み上げてくる。


「シバ社長は…変わってしまいましたね。
 以前の貴方はそんな事を言う方じゃなかった…」

「秘書のお前がそう言うなら
 そうかもしれないな…」

「私はッ!
 ずっと貴方様を慕ってきましたッ!
 貴方の事が好きで…大切に想うからッ」

「鮫島…」


止めどなく溢れる涙で
必死に想いを伝える彼女は
社長も今まで見た事ないくらい
感情を表にしていた。

そして初めて聞き、知った
”自分に対する本気の愛情”


予想外の告白に社長は何も答えられず
目を丸くし驚いてしまい
それを見た鮫島も
伝えてしまった事を悔いた。